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Scene”Professor” [仮面ライダー]

 何もかもから隔離されたような深淵の闇の中、走る足音は遠く反響していた。 閉鎖空間ではないのだが風の流れは今いる場所では感知できず、足元にあるの埃の層さえ決して厚いとはいえない。
 コンクリートで固められた床も天井も壁もむき出しでところどころにある照明器具は一つとして作動していなかった。
 墨を流したようなその中にただ二つ輝く双眸とベルト。
 Artsは街の地下にいた。

 地下には様々な空間がある。
 それは倉庫であったり地下鉄であったり、下水道であったり、貯水池であったり、川の氾濫を防ぐための空間であったりだ。
 今いる場所が何に使われる場所であるのかはわからないがそんなことはどうでもよかった。
 この闇の中にあってその歩みには全く危うさがない。まさに見えている者の足運びである。

 
 Artsは突き当りまで来ると隅の通路に走り、そしてそのまま最初の十字路を突っ切り、次にやってきたそれは躊躇なく右に曲がった。

 狭まった通路を横切るように流れる小川を飛び越え、さらに先に進んだところで道をふさぐように倒れているものを発見した。

 それは動物園にいてもおかしくないサイズの鰐であった。
 ろくに争った形跡もないのに鰐は首の根元を見事に裂かれている。
 小口径の銃弾でさえ通さない頑丈さを持つあの硬質の皮膚をこうも鮮やかにやって見せた者は追っている相手に間違いない。
 
 Artsは一度足を止めたものの、それを飛び越し先を急いだ。
 入り組み、枝分かれした道を迷うことなく選び、竪穴や段差もものともせず、そして進んだ先の大きな道の途中でとうとう立ち止まった。

 進行方向から目をそらし、壁を見つめるとそこに近づき床を見た。
 
 おもむろに両手をつくとArtsはそこを押し始める。
 だが壁はびくともしなかった。
 
 「スキル」
 
 暗闇の中に煌々とアイコンが並んだ。
 Artsがその中の一つに触れる。
 
 「Collapse」
 音声ともにアイコンがベルトに張り付く。
 文字が空間に残ったままもう一度機械音声が鳴った。
 「Action」

 Artsが壁に手を触れるとその部分が砂を崩すかのように崩壊した。
 両手を勢いよく突き出すと壁が波紋のように波うち、そして一気に崩れた。
 その先に、トンネルが隠されていた。

 Artsはその中に入ると一度床を見つめた。
 そこには何もなかったのだがArtsは何かをたどるようにトンネルの奥を見た。

 「バイクか。」

―――――――
 
 人気もなくなった病院のロビーで、香川は蝙蝠の前に回りこんだ。
 
 「人助けだと?」

 「そうではない。」
 蝙蝠は香川を押しのけ出てゆこうとする。

 「あの子があんな風になったのはお前のためだというのに、一体どういうつもりだ!まだわからないのか、お前のしていることは・・」

 香川の言葉を蝙蝠は制した。
 そして香川をまっすぐ見返した。

 「明日の朝には戻る。お前が俺を捕まえたいのはわかる。だが、明日の朝まで待ってはくれまいか。」

 思わぬ言葉に香川は言葉を飲み込む。
 
 「もちろん自首するつもりはない、捕まるつもりもない。だが必ずここに戻ってくる。それまで邪魔はしないと誓ってはくれないだろうか。」

 香川は蝙蝠に顔を近づけて言う。
 「何を言っている。」
 また人助けの名目の上で通り魔を行おうとするのを見逃せとでも言うのだろうか。香川はそこまでお人よしではない。
 「お前が戻る保障がどこにある。」

 蝙蝠はもっともだと言った。そしてしかしといいながら香川を強引にどかせるとすたすたと玄関を出て行く。

 「待て!」

 大きく翼を広げた蝙蝠を見て香川は走った。これから通り魔をしでかそうという相手を逃がすわけには行かない。

 「変身。」 
 「Action」

 まさに飛び上がった蝙蝠を香川は飛びついて捕まえた。
 墜落した蝙蝠のその翼をもぎ取ろうと力をこめたとき蝙蝠が言った。

 「頼む。明日の朝まで時間をくれ。」
 「どういうつもりだ。」
 いつでも引きちぎれるように手をかけたまま香川は言う。

 「俺はヒーローとしてしてはならないことをした。一般人の命を危険にさらしたんだ。」
 「何がヒーローだ。お前が手を下してきたのも一般人だ。」

 「俺にとって犯罪者は一般人ではない。それに今はそんな話をしている暇はないんだ。」
 「犯罪者は貴様だろうが!」
 香川は苛立ちのあまり殴りつけそうだった。
 「ならば!」
 蝙蝠は言った。
 「ならば、なおさら邪魔はしないでくれ。俺が犯罪者だというならば人を救うことを邪魔しないでくれ。」
 香川はさすがに腹を立てた。
 「通り魔が人を救うことだというのか!」
 蝙蝠は怒鳴った。
 「そうではない!俺を救った勇気ある少女だ!彼女を救うには他に方法を思いつかない!」
 香川の力が一瞬緩む。
 「なんだと?彼女を救う?どういうことだ。」
 蝙蝠は香川を跳ね飛ばしそして言った。
 「心当たりがある。毒の血清だ。」
 「なんだと?」

 蝙蝠は立ち上がると翼を確かめながら言う。
 「毒を扱うものは必ずその血清を用意しているものだ。俺はあいつのアジトを知っている。」
 香川は仮面の中で目を見開いた。
 「CADUCEUSのアジトなのか?」
 蝙蝠はそうだと言った。

 その事実は香川を震撼させた。
 生き残りがいたのだ。
 全世界が総力をつぎ込んで倒したはずの秘密結社にはやはり生き残りがいたのだ。

 「だが、お前が期待しているものとは違うだろう。」
 蝙蝠はそう告げた。
 
 それはそうだろうと香川も思った。
 大方世界中に点在している小さな支部の出城でしかないのだろう。
 だとしてもその場所がわかる意味は大きい。

 「数日で自衛隊の方からハードウェアシステム部隊の応援を呼ぶことができる。」
 香川がそういうと蝙蝠は怒鳴った。
 「何を言っているのだ!何が数日だ。必要なのは今危機に瀕している者を救うことだ!役人というのはそれがわかっていない!」
 今度は香川が怒鳴った。
 「単身乗り込んでつぶせると思うのか!失敗すればより堅固になるかそのアジトを破棄されてしまう。それでは叩き潰せない!充分な準備を持って・・」
 
 「ならばお前はそうしろ。あの組織が倒れようが倒れまいが俺には大して関係はない。今の俺に最も重要なことは、人を守る勇気を持った少女の命を守れるかどうかだ!」
 蝙蝠は翼を広げ飛び上がった。
 
 蝙蝠の言葉に香川は唇を噛んだ。
 情けなくて恥ずかしくて血が沸騰しそうだった。
 だが次の瞬間すぐに蝙蝠の足に飛びついた。

 「まだ邪魔をするのか。」
 「お前が帰ってくる保証はない。だから、監視させてもらうぞ。」

―――――――

 香川と蝙蝠はそれぞれ大型のバイクに乗って木々深い山の中の道を走っていた。
 蝙蝠の体にあってはバイクはいくらか小さく見えたがそれでも元々ハードウェアシステム着用者を乗せることを前提で設計してある特殊車両であるため全く問題ない走りを見せている。
 
 辺りに民家はないのだろうか、照明の類は一切なくバイクのライトのみがそれにあたった。

 と先を行く蝙蝠がバイクを止た。

 香川もそれに習い近くに止める。
 
 「ここなのか?」
 「いや、そうではない。この先をずっと行けばに入り口がある。だが、この辺りからは監視されているだろう。お前は目立つ。ここで待っていて欲しい。俺一人ならラボまで行けるだろう。」
 蝙蝠の言いたいことは香川にもわかった。
 こともあろうにハードウェアシステムが入り込めばあっという間に警戒態勢になるだろう。

 「わかった。対策しよう。」
 香川が言うと蝙蝠はあきれたように言った。 
 「そんな暇はない。俺は行くぞ。」
 「お前が入るタイミングであればカメラ以外の監視はないだろう。光学か、サーモグラフィか。エコーでないなら問題ない。」
 蝙蝠は香川の言う意味がわからなかった。
 「ハードウェアシステムは元々敵基地潜入を前提に設計されている。量産段階でオミットされた機能もあるが、タイプによっては引き継がれている。」
 香川がそう言うと蝙蝠は怪しむように目を細めた。
 
 「コンシールテクスチャ」
 「Mapping」
 香川の声の後、機械音声が鳴った。
 すると暗闇に浮かび上がっていたハードウェアシステムの双眸とベルトの輝き、そしてシルエットそのものが消えた。
 バイクの上は無人となった。

 「蝙蝠なら見えているか?」
 「あいにく俺は大型の蝙蝠がベースでね。エコーロケーションはしていない。」
 目を丸くしながら蝙蝠は答えた。
 何もない空間から声がするのは実に奇妙なものだ。
 試しに角度を変えて覗いてみたが香川の姿は見えない。
 透明になったわけではないらしく、香川がいる辺りの向こうの像がゆがんで見えるようなかった。
 ただ彼が座っている所が重みでへこんでいる。
 
 「一体これは。」
 「説明は長くなる。ただこの状態を維持するにはあまり素早くは動けない。周りの景色がめまぐるしく変わる場合、どうしても処理落ちを起こしてしまうからだ。」
 「つまり、派手に動き回るとその体表に映る裏側の風景が遅れてしまうってことだな。俺にのんびり動けというのか。」
 香川のバイクのエンジンが止まりライトも消えるとシートのへこみがなくなり、蝙蝠のバイクに荷重がかかった。
 「アジト内部ではそう願いたい。」
 蝙蝠は自分の背後にいる相手に顔を向け、その顔出できうる限り眉をひそめる。
 「そうはしない。あの少女の命がかかっている。お前にかまってなどいられるか。」

 蝙蝠がバイクを出すと背中でもっともだと声が聞こえた。


 その後数分走った後、その道が崖で閉ざされていた。
 バイクを降り、壁を確かめている蝙蝠の姿に、香川がアクシデントだと思ったその時、目の前の土砂の一部がシャッターのように開いた。
 
 蝙蝠は再びバイクにまたがり、暗いトンネルの中を進んでゆくと程なくして開けた場所に出た。
 
 そこはドーム状の天井のあるガレージのような場所であった。
 トラックやワゴンなど様々な車種に混ざって、装甲車やヘリなどまでがそこにはあった。

 蝙蝠はその真ん中をまっすぐ行くとバイクを降りた。香川も同時にそうする。
 一応この施設をデータとして残しておくためにぐるりと視界に入れておく。
 そのときに香川は辺りがすでに大勢に囲まれていることに気づいた。
 物陰からわらわらと戦闘服を着た男たちが姿を現す。

 蝙蝠は香川に声もかけずに奥に進んでいった。
 しかしその足取りはなんだか様子がおかしかった。

 蝙蝠の後を香川もついていくと大型のエレベータの前にいた男達がこちらを見た。
 二人のうち片方は市街地迷彩の戦闘服に丸刈りのようないでたちであったが、もう一人はジーンズにタンクトップとずいぶんラフな姿をしていた。

 「どなたかと思えば蝙蝠さんのお出ましじゃないか。」
 茶化すようにタンクトップが言うと、丸刈りの方はやる気満々と言った風に歩いてきた。

 「待ってくれ。見ての通りだ。俺は蠍から命からがら逃れてきたところだ。剣で斬り付けられてしまった。俺が助かるにはもう道がないんだ。」

 「と言われてもよ・・・。」
 タンクトップがぼやくと丸刈りはその必要はないと言い切った。
 「貴様の行動は組織にとって好ましくなかったのだ。再三忠告も行ったはずだ。」

 蝙蝠は手をふって弁明する。
 「しかしそれは結果だ。たまたまそうなっただけだ。俺は組織に反旗を翻す行動はしていないはずだ。考えても見てくれ。俺が組織に逆らって一体何の特がある。確かに蠍とはやりあったが身を守るためだ。それにお前達は知らないだろうが、俺は志願して組織に入ったんだ。」

 「いまさら何を言い訳しても・・・」
 丸刈りの言葉をタンクトップが遮る。
 「ま、確かに、裏切ったんならのこのこ戻ってきたりしねぇわな。命狙われているってわかっていて、それでもあえて来るっつうんだから、よっぽど切羽詰っているんじゃないの?それに、ハードウェアのお兄さんに追い掛け回されているって事、うちらも掴んでいるしね、蝙蝠君にとっちゃ八方塞なんでしょ。それに、蠍の大将もあんなこてんぱんにされちゃハードウェアのやつには恨みがあるだろうしね。」

 蝙蝠は驚いたがそれを面には出さなかった。
 「蠍が?」
 
 「ああ、よろよろしながら帰ってきたよ。かなり危ない状態だった。今再生を受けている。ラボであったらよろしくな。」
 「おおい!」
 丸刈りがとがめるがタンクトップは大型エレベータの横の小さなエレベータを示した。
 「いいじゃん。もともとこいつをしとめるのは俺達の役目じゃない、蠍の大将の仕事さ。助けを求めに来た仲間を通したってだけで俺達ゃ何も非がないわな。あったとしたらそれは蠍の大将にだ。」

 「助かる。」
 蝙蝠は頭を下げるとやや苦しそうにしながら扉の開いたエレベータに乗り込んだ。
 「今度飯おごれよ。」
 エレベータの扉が閉まるとき、タンクトップがそんなことを言った。

 エレベータが下降を始めると蝙蝠は顔を動かさずに言った。
 「ハードウェア、来ているか?」
 「心配するな。」
 背後で香川の声がする。
 「ならいい。」

 程なくして目的の階に到達した蝙蝠は秘密結社の施設とは思えない様な明るい廊下に出た。
 掃除は行き届いていて角を丸くしたような方形のトンネルは天井も床もつながっていて、その白さに清潔な印象を受ける。

 セラミックの上を歩くような足音を響かせながら蝙蝠は壁に手をつきながら歩いた。

 香川は意外にも足音を立てずについていたが一度だけ立ち止まった。
 「マッパー・・」
 「Action」
 機械音声は普段とは違い骨伝道を使って香川にだけ返事をする。

 香川の体表から一度だけ特殊な音波が放射され、その反響を元にデータバンクに観測できうる範囲での三次元地図を作り上げる。
 「Complete」
 
 香川はエレベーターの位置にマーカーをおいて蝙蝠のあとを追った。

 いくつかの角を曲がり、簡素なものといくらか審査の必要なゲートをいくつか通った後、蝙蝠は目的と思われる場所に到達していた。

 蝙蝠がドアをたたくとインターホンから声がした。
 
 「君か、入りたまえ。」

 ドアが自動で開くと蝙蝠はよろよろと中に入り込んだ。

 ラボの中はこの先もいくつかの部屋に分かれているようで入り口に当たるこの部屋でさえ香川にはよくわからない機械や設備が並んでいて明らかに本格的な施設であることがわかった。
 いかにも学者に見える白衣の男達が数人モニターを見ていたり数式を書いていたりしていた。
 
 まさかここまでしっかりした施設を日本に築いていたとは思っても見なかったため香川はたじろいだ。
 しかもこのアジトは彼らの主要基地ではないと蝙蝠は言ったのだから。
 この規模のものが日本中のあちこちにあったとしたらたまったものではない。

 学者達の中の一人、初老で細身の小男が蝙蝠に近寄って来る。

 「教授、」
 蝙蝠が話そうとしたが教授と呼ばれた初老の男はああ聞いている聞いていると二度頷いて遮った。
 「蠍に斬られたんだそうだな。尻尾でなくてよかった。」
 教授は悪意のない微笑を浮かべるとついてくるように促しながら背を向けた。

 これが悪の科学者なのか、香川はこの男たちを何とかすべきではないだろうかと考えたが彼らが悪事を働いた確証がない。

 蝙蝠の後に続いて香川もすぐ隣の部屋に入った。

 部屋は前の部屋とは違い、いくらか照明が落とされている。
 そして何より目を引くのが二つおかれているMRIを思わせるような巨大なカプセルだった。ただ違うのはこれは完全に密封されていることだった。

 「お隣に喧嘩相手がいるんじゃ落ち着かんかもしれないがそこに横になりなさい。」
 教授は蝙蝠に促した。

 「否、血清さえ打ってくれたらそれでいい。」
 教授はそれを聞くと小さく笑った。
 「さすがの生命力だね。しかしあれとサシでまともにやり合って、無事でいるほうがおかしいよ。毒を受けてここまで来る間にあちこち組織が崩壊を起こしていてもおかしくない。私はね、君達が大事なのだ。」
 
 「アウォークがか。」
 蝙蝠が言うと教授は目を細めながらかえす。
 「息子達がだよ。」
 言った後教授は操作盤を動かしカプセルのふたを開けつつ背中でさらに加えた。
 「特に君はね。」

 蝙蝠はややまぶたを下ろしたが、香川にはそれが怒りなのか悲しみなのか判断がつかなかった。

 「せっかく翼があるんだ。もっと飛んでもらわないことには。さぁ、ここへ。」
 
 蝙蝠は首を振った。
 「悪いが、蠍が目を覚ました時俺がいたらカプセルごと破壊しかねない。あれはそういう命令を受けている。」

 「そうだね、早急に措置が必要なこともあるから、手当ての許可は下りてはいるが、君の今後についてはまだ上から判断が降りていない。」
 言いながら教授は蠍の入ったカプセルが収まった巨大な機械に寄るとそっと触れながら続ける。
 「一度は抹殺指令も降りているのだしね。しかし君が反省の姿勢を見せた様だとも上は判断しているのかもしれない、君は確かに反旗を翻してはいないからね、だがあるいはその上でやはり君を裏切り者とするのかもしれない。どちらにせよ喧嘩はともかく殺し合いを兄弟にはして欲しくはないものだ。」

 「俺はこいつらと兄弟になった覚えはない。」
 蝙蝠はあっさり否定する。

 「覚えているよ。君が来た時の事を。もっとも今のところ全員覚えているのだがね。」
 教授は笑った。
 「だが君は中でも特異だった。自ら志願してここに来たんだった。」
 蝙蝠は鼻に筋を寄せて昔の話はやめてくれと言った。

 「とにかく俺はここには血清を求めてきたのだ。あの剣を使う以上あいつもそれを持っているはずだ。誤って自らを傷つけてしまうことが無いとは言えないからな。そしてあれが持っているということはここにも用意されているはずだ。」

 教授は頷いた。
 「もちろんだ。・・・・あああ・・なるほど、わかったよ。」
 教授は小さく頷いた。
 「確かに、君には再生処置よりも血清の方が必要だろうな。」
 
 蝙蝠は一度軽く目を見開いたが今度はきつく絞った。
 
 「血清ならB-3ルームだな。君の体のチェックも含めて私自身が打つとしよう。着いて来たまえ。」
 
 教授はすたすたと部屋を出た。
 蝙蝠はその背を睨み、部屋を出ようとしなかった。
 
 「何をしている。急ぎたまえ、取り返しがつかなくなっては大変だ。」

 促され、ようやくあとを追う蝙蝠。
 部屋を出る間際、蝙蝠は他に聞こえないようにつぶやいた。
 「ハードウェア、逃げる用意をしておけ。いや、もう行け。」

 香川は蝙蝠が何を言っているのかわからなかったがきっと何か違和感を感じたのだろうと思い今まで歩いた経路と障害になりそうなものをバイザーの内側に表示させた。

 蝙蝠と教授は奥の部屋に進むと出入りが厳しそうな厚い扉の部屋に入っていった。
 香川はどうしたものかと考えたが扉の外で待機する。

 教授は室内のベッドに蝙蝠を腰掛けさせると扉を閉めた。

 部屋はそう広くは無く、薬剤庫や冷蔵庫、保温庫など様々な保管設備が整っていた。

 「さて、と。」
 教授は扉を背に蝙蝠に向いた。
 「許可を得ずにここを飛び出し、そして戻ろうとしなかった君が、どうして戻ってきたのかを考えていたんだよ。」
 「傷を受けたからだ。」
 蝙蝠はそう答えた。
 「筋は通っているね。しかしそれはさっきまでの話なのだ。」

 教授は一度小さく息を吐いて蝙蝠を見据えた。
 「ここの壁は厚い、そうそう音が外には漏れないだろう。それだけではない。それは出入りも難しいということだ。」
 「そのようだな。少なくとも血清をもらうまで俺は出られない。すぐ用意してくれないか。」
 教授は小さく笑った。
 「そうだな。君は正しい。しかし先日度も言ったが、それはさっきまでの話だ。」
 蝙蝠の背中にびりびりと緊張が走った。
 「それは?」
 低くなった蝙蝠の声に、教授は例えばだと続けた。
 「例えば君が、ある日正義の心に目覚め、世界の脅威となりうる秘密結社を壊滅させてやろうと考えたとする。まるでテレビのヒーローのようにね。しかし、君はその結社が単身乗り込んで壊滅できるような代物ではないと知っていたとする。」
 蝙蝠は何も答えなかった。
 「そして例えば、かつてその結社を壊滅に追い込んだ別のヒーローの力をかりられたとする。そのヒーローは透明になれるので、君が問題なく潜入できたら後を着いて来るだけでいい。そこでだよ。」
 教授は一度息を整えた。
 「君がもし、その結社だとしたらどうするかね。」

―――――――

 香川は扉の外で研究者の様子を伺っていた。
 香川の判らない研究をしているがバイオテクノロジー関係だということだけはなんとなくわかる。
 しかし、蝙蝠が逃げろといったのはどういった意味なのだろう。
 蝙蝠が香川を土産にここへ来たわけではないことは信頼できた。
 もしそうだったなら病院でもっとうまく立ち回れたはずだからだ。逃げろという発言からもそれは伺える。

 だが、逃げろということは自分が潜入していることがばれたという事ではないのか?
にしては警報らしきものは鳴っていないし、研究者ものんびりしたものだ。

 あの教授という男が何か感づいたって事だろうか。
 だとしたら蝙蝠は。
 血清どころか今度こそ毒を打ち込まれかねない。

 どうする。扉を破るか。
 そうすれば蝙蝠は助かるかもしれないが問題はその後だ。
 ここは敵のアジトの中、しかもかなり深い所だ。あっという間に手詰まりだろう。
 もしかしたら何らかの手段で連絡は行っていて、すでに出入り口を封鎖されていないとも言えない。

 「逃げろだと?お前は何のつもりだ。血清を持って戻るのだろう?」
 香川は扉を見つめた。
 しかしそれ以上今、何も行動を起こせなかった。


2010-06-21 15:58  nice!(2)  コメント(4)  トラックバック(0) 
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コメント 4

takehiko

ついに、Artsが現われましたね!
蝙蝠さんと香川さんのコンビも何だかしっくりして来て・・。
ライダーにもなってきましたしw


アジトへの潜入に、思わず息をひそめて読ませて頂きましたw

教授はなぜ香川の存在に気づいてしまったんだっ!
はらはらはらはら・・・。
早く血清をっ!
ああ・・・でもこんな奥深くまで潜入してしまったし・・。
Artsがまた救ってはくれまいか・・。
早く由香里さんをたすけてあげてくれいっ!

つづきを~~~~~っ!!;;
by takehiko (2010-06-22 18:24) 

じぃじぃ

こんにちは、ご無沙汰しておりました。
私の世代だと、どうしても『蝙蝠』というと
黄金バットになってしまいます。
それも紙芝居版のですが。
そんな蝙蝠を想像して読んでます。

この度、何とか料理ブログ(http://jixicook.blog.so-net.ne.jp/
をオープンしました。こちらがメインとなります。
たどたどしい内容ですが、これからもよろしくお願いします。
(^▽^)/

by じぃじぃ (2010-06-29 18:12) 

xephon

takehikoさんこんばんは。

あたたかい応援ありがとうございます。
教授は香川が着ているかどうかはしらないんですよーw

しかし・・バイクに乗らないライダー・・Arts・・。
そんなライダー前にもしましたっけw
by xephon (2010-07-05 20:06) 

xephon

じぃじぃさん、また来てくださってうれしいです!
黄金バットですか!
高笑いする奴ですよね!
この蝙蝠は直立した蝙蝠が腕と翼をもた真っ黒な奴だと思ってくださいw

なんか西洋の悪魔みたいですね・・・。



by xephon (2010-07-05 20:08) 

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